【レビュー】マジック界への提言/HISA
マジックマーケット2023秋。
【HISA】|マジック界への提言を読了したので、所感を書いていこうと思います。
このインタビュー、メンバーの豪華さもさることながら、引き出している内容がとてもディープ。
協力としてクレジットされている岡村真衣さんのインタビュー本を拝読したときも思いましたが、やはりインタビュアーの人柄が良いと出てくる内容も良くなるんだなと。
鵜飼太士さん「大きな愛に包まれた魔法」
Wonderful Giftというショーで大切にしていることを深堀りしたインタビュー。
マジシャンになりたいと思って練習を重ねると、どうしてもプライドが邪魔して「自分の技術を見て!」といった演技をすることが多くなりがちですが、お客さんを主語にしたマジックができる鵜飼さんの見える景色を見せて頂けるインタビューでした。
「あなたにとってマジックとはなんですか?」という質問は、その人のマジシャンとしての哲学を知る最も直接的なツールですが、鵜飼さんの答えは本当に美しかったです。
まだ生で鵜飼さんの演技を見たことがないのですが、このインタビューを読んで凄く見たくなりました。(彼女がいないのであれですが......)
野島伸幸さん「良きマジシャンでいましょう」
種明かし問題は定期的に論争になって色々な意見が生まれていますが、野島さんの「なんで種明かししちゃいかんの?について思うことを書きました」はその論争の一つの答えだと思います。
今回のインタビューはこの記事の深堀りという形になっていました。
野島さんの種明かしに対するスタンスは上の記事を見てもらえれば分かると思うのですが、今回の雑誌ではそれに追加して「クレジットってどこまで気を使うべきなのか」「マジシャンが主な客層になっているイベントで非マジシャンとの住み分けはどうするべきか」などといった部分にも触れられています。
まさに、今マジックをやっているすべての人に対する提言だと思いました。
暗黙の了解が多いマジック界隈で、この様な常識の部分を言語化してくださる人がいるというのは、大きな財産だと思います。
ナカムラアツキさん「美と手品と知恵と愛の精神との対話」
う〜ん、天才の思考。
ナカムラアツキさんのマジックは以前うそたばでお会いしたときに生で見せて頂いたのですが、「なんかやって」で出せるクオリティじゃない手品が出てきて度肝を抜かれたのを鮮明に覚えています。
あのマジックは相当なこだわりがないと出来ないよなぁというのが当時の感想なのですが、本当にこだわりが凄かった。
文章自体に価値があるので内容の言及は控えますが、どの理論書を読んであのマジックが出来上がっているのか分かるのはとても勉強になります。
技法で全てを解決しようとするマジシャンに対しての素晴らしい提言でした。
JONIOさん「自分のやりたいことを届ける能力」
JONIOさんといえばマジックに対する意識が高く、歩く啓蒙書のイメージだったのですが、今回のインタビューを読んでJONIOさんは本当にマジックが好きなんだなと改めて感じました。
マジシャンという傾奇者としての生き方を選んでいるのにも関わらず、「何か」に囚われてしまっているマジシャン達。
このインタビューでは我々日本のマジシャンが囚われいる「何か」をバスッと言語化して、何故日本のマジシャンがその様な傾向にあるのかということを海外の事例と比較して解説されています。
全体を通して希望のメッセージという感じでしたが、特に最後の「マジックへのエネルギーはどこから出てくるのか」という話は刺さる人多いのではないでしょうか。
JONIOさんだからこそ言える提言だと思います。
ALICEさん「イッツ、ビザール。」
冒頭の文章から面白い。
ALICEさんは今回インタビューした方々の中で唯一、こちらからテーマを用意せずに話して頂きました。引用:マジック界への提言
なんや、ALICEさんに恨みでもあるんか。
もの凄い無茶振りから始まったALICEさんのインタビューですが、内容を読むとなる程このやり方は正解だなと感じました。
ALICEさんはそのキャラクターや演目上SNSで様々な評価を受けています。
その中には好意的な意見もあれば批判的な意見もあるわけで......
やろうと思えば、どこにも毒を吐かないマジシャンでいることもできるのに、それでも尚、偽悪的な態度を続けているのは何故なのかという部分にALICEさんの哲学を感じることが出来ました。
弱さを晒せる強さというものがありますが、ALICEさんの持っている強さをビンビンと感じる事ができるインタビューです。
ALICEさんは、他のマジシャンと一線を画すキャラクター性を持っていますが、それがどこから生まれているのかという話は聞いたことがなかったのでとても面白かったです。
先程のJONIOさんのインタビューで触れられていた内容と真逆の内容でエネルギーを生み出しており、しかしそれでしっかりと成立している。
ALICEさんの何が凄いのか、マジシャンが自分のコンプレックスと向き合うとはどういうことなのか学ぶことができる提言でした。
まとめ
これはマジシャンに限った話ではないと思うのですが、何かを創ったり表現したりする方の哲学というのは示唆に富んでいてとても面白いです。
自分が普段気づけないことに気づかせてくれたり、パク...これは参考にしたいなと思えるようなアイディアがあったり。
だからこそ、インタビュアーは人が秘密にしたがる深い哲学を引き出すことができる人柄と人徳を備えていないといけません。
編集後記に、今回の雑誌が如何にタイトなスケジュールで制作されたかが記載されていますが、この期間でこれだけのインタビューを行ったというのは凄まじいことだと思います。
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